2024年9月27日発売「コミュニケーション34の力」

※以下の文は、2024年9月15日配信「RADIO中村堂 第33号」の内容をもと再編集したものです。


「コミュニケーション34の力」は、平成17年度北九州市立香月小学校6年1組34名の児童の皆さんがまとめたものです。
ご承知のとおり、この6年1組を担任していましたのは菊池省三先生です。
この本の歴史をふり返ってみます。
2014年4月に中村堂から「小学生が作ったコミュニケーション大事典 復刻版」として発行しました。
それを10年ぶりに「コミュニケーション34の力」、そして、「コミュニケーション科叢書」の④として、 タイトルを改め(改題)して発行するものです。
さらに歴史をさかのぼってみますと、2006年3月に「小学生が作ったコミュニケーション大事典」として、北九州の地元書店・荒木書店さんから初版が発行されています。
初版の発行から8年を経て、2014年4月に「小学生がつくったコミュニケーション大辞典 復刻版」を中村堂から発行し、さらに10年経って、「コミュニケーション34の力」として改めて発行する、こういう歴史を歩んできました。

前回の「コミュニケーション大事典 復刻版」からの変更点を簡単にまとめます。

まず、書名(本のタイトル)を「コミュニケーション34の力」に変更しているということが大きな変更点です。
そして、タイトルの中に「コミュニケーション科叢書」の「④」として、シリーズの中に入れたことも変更点です。

次に、本の大きさです。
初版の「コミュニケーション大事典」(荒木書店版)は、A4判という大きな本でした。
それを中村堂で復刻版として出したときに、B5判に縮小しました。
今回は、そのB5判からさらに縮小して、A5判に変更しました。
A5判は、一般的な教育書のサイズです。
ということで、A4判からB5判に、そしてA5判にと、大きさが2段階小さくなりました。
初版と比べると、今回のものは、半分の大きさということになります。

本文の書体は、明朝体からUD教科書体に変えて読みやすくしました。

改めて、この本のもともとの企画段階に戻ってふり返ってみますと、「コミュニケーション大事典」は、平成17年度(2005年度)に、菊池省三先生の指導のもと、福岡県北九州市立香月小学校6年1組の児童34人が、現代を生きる人たちに必要とされるコミュニケーションの力を34項目に分析して、 全員が1項目ずつ分担し、徹底して調べ、学び、各4ページにまとめ上げたものです。
今回改版するに当たり、私自身、細かく読み直しをいたしましたが、コミュニケーションの力について学び、身につけるための教科書として、これほどのものはないのではないかという感想をもちました。
地域の図書館、学校図書館、そして、学級文庫、さらには、教室の中でのコミュニケーションを学ぶ教科書として最適だと考えます。
これまでに、大人の研修、例えば社員研修の場でコミュニケーションを学ぶテキストとして活用されてきていますが、そのような使い方にも適していると思います。
家庭の中で、親子でコミュニケーション力を育んでいく際の参考図書としてもふさわしいとも思っています。
いずれにしましても、12歳の子どもたち34人が心を合わせて挑戦した結晶として、この1冊の中にその内容が凝縮されています。
初版から数えますと18年の歳月を経ているわけですが、ますます輝きを増した1冊ではないかと改めて思っています。

34の力は以下の通りです。
【34の力】
あいさつ力、返事力、表情力、笑顔力、うなずき力、あいづち力、目線力、姿勢力、ボディランゲージ力、メモ力、傾聴力、質問力、コメント力、リアクション力、滑舌力、「出す声」力、計画力、リサーチ力、構成力、リハーサル力、振り返り力、会話力、「報・連・相」力、話題力、説明力、具体化力、短文力、「間」力、反論力、語彙力、ふれあい力、ユーモア力、単独力、方言力

この言葉を1つ1つ確認してみると、コミュニケーションに必要な力が網羅されているということを再認識します。
そして、コミュニケーションという大きなテーマに対し、34の力として多面的にアプローチしていることは、一つのクラスの研究として、相当レベルの高いものだと思います。

新しくなりました「コミュニケーション34の力」を2つの視点で捉え直してみます。

1点めは、「内容のすごさ」ということです。
もう1点は、「菊池省三先生の実践のすごさ」ということです。

まず、「内容のすごさ」についてです。
この本は、全体で168ページですが、最初から最後まで、決して緩むことなく、生き生きと血の通ったコミュニケーションに関する記述にあふれています。
「コミュニケーション34の力」として再編集の作業をする中で一緒に仕事をしている妻は、校正の作業を進めながら、こんなことを言いました。
「(全国的に有名な人材派遣会社である)「P」の社員たちにこの本を読んでもらいたいものだ」(「P」は仮称です)
と。
コミュニケーションに関する本は、書店の棚にたくさんあります。
それぞれ、具体的なコミュニケーションの内容についてはきれいにまとめられています。
ただ、ここまで生き生きと、あるいは、血の通った内容としてまとめられた本という意味において、群を抜いているのではないかと思います。
そんな思いで、妻は人材派遣会社の社員に読ませてやりたいと言ったのでしょう。

この本の「見どころ(読みどころ)」は、たくさんありますが、いくつか紹介します。
冒頭書きましたように、「34の力」は、それぞれ4ページで構成されています。
1ページめに、その「力」のポイントが端的にまとめられています。
2・3ページめで、「力」について調べたことを詳しく解説します。
本を読み、その道のプロフェッショナルに会いに行ってインタビューをし、テレビを見て、様々な方法でそれぞれの「力」を極めていきます。
4ページめに、まとめとして、その「力」を高めるためのゲームや関連することがらを紹介します。

2ページの最初に、「1」として、「『●●力』って何だろう?」のようなタイトルで、「●●力」の定義をしています。
その定義を読むだけでも、本当に調べたな、学んだなということが分かります。
例えば、「6 あいづち力」では「1.『あいづち力』って?」の見出しに続いて、次のように記述がされています。
「あいづち力とは、相手の伝えたい内容や気持ちが理解できましたよ、という聞き手からのメッセージを伝える力」。
いかがでしょうか?
「理解できましたよ、という聞き手からのメッセージを伝える力」-これをあいづち力と定義しています。
本当は、34の力の定義を全部紹介したいところですが、そうもいかないのであと2つだけ紹介します。
「10 メモ力」では、このように定義しています。
「メモ力とは、『相手が話したことの中で伝えたいこと、大切なことを記録し、自分の発信にも役立てる力のこと』である」。
いかがでしょう。
すごいですね。
そして、もう1つ。
「12 質問力」です。
「質問力とは、相手の気持ちの中に入り込み、必要な情報を得るとともに、お互いの人間関係を楽しくすることができる『問いかけの力』のことである」。
人間関係を楽しくするという言葉に表れているように、コミュニケーションの本質を、自分たちで考えながら、理解しながらこの本がまとめられた、ということが分かるのではないかなと思います。
例示したような学びの深さが一人4ページ、34項目の中にはぎっしり詰まっているということを、今回の編集作業を通して改めて感じました。

今回もう1つ思ったことは、「菊池省三先生の実践のすごさ」ということです。
菊池省三先生は、この本を平成17年度に担任した子どもたちと共に、 総合的な学習の時間の半年間をかけて1冊の本にまとめたと、本文に書かれています。
思い起こせば、総合的な学習の時間は、平成12年度に段階的に始まり、平成14年度から本格的にスタートしました。
菊池先生は、総合的な学習の時間が本格スタートした3年後の平成17年度の実践としてこの本をまとめられたことになります。
総合的な学習の時間は、 大いに期待されて始まりましたが、一人ひとりの先生方に委ねられている部分がとても多く、年間の指導計画の作成や準備に時間がかかり、実践がなかなか深まっていかないという状況がうまれました。
その問題は今日まで続いているのではないかと思います。
そうした中、北九州の地で行われた菊池先生のこの実践が、総合的な学習の時間の在り方の一つのモデルとして、1冊の本に凝縮した形で示されているのではないかと思います。

今日、「自由進度学習」が言われています。
私自身、「自由進度学習」ことについて不勉強で、表面的な理解しかしていないという反省の中で、あえて以下のことを書かせていただきます。
1つの決まった答えや、同じゴールに向かって子どもたちを導く一斉授業は、効率性においては優れていて、今日まで重視して続けられてきたように思います。
ただ、クラスの中に34人の子どもがいれば、様々な特性がそれぞれにはあるわけですから、その子に応じた教育、学習環境の整備は、欠かすことのできないものだと思います。
こうした理想論(とあえて書きますが)はありつつ、「自由進度学習」が提唱されても、それを具現化することについては大きな困難が伴っていると思います。
子ども一人ひとりの学力の違いや状況の違いに基づいて、自分に合わせたペースで学びを進めていくことによって、学習意欲や理解度が格段に高まっていくという効果が言われているわけですが、実態はなかなかそうはいかないということです。

18年前に、菊池先生がされたこの半年間の実践は、究極の「自由進度学習」が行われた大きな事実であると私は読み取りました。
大きな統一感、共通の学びのめあてをもって、34人がそれぞれ違う課題を自分の中にもちつつ学びが進んでいった事実が、この1冊の中から伝わってきます。

「『間』力」についてまとめた134ページにこんなことが書かれています。「『話力』は『間力』」と、黒板に書かれたこともありました。」
教室の中で菊池先生が一人の児童に対して、スピーチの仕方について指導をされました。
その子はその指導を全身で受け止めて、自分自身はそのスピーチ、話をするときの「間」ということについて本気で考え始めたのです。
学びの課題が一人ひとりの中にその子独自のものとしてきちんとあるということが伝わってきます。
この本には、たくさんの写真が掲載されていますが、そこには各4ページの課題をまとめた子どもたちがたくさん写っています。
菊池先生がカメラを持って、そのレンズ越しに一人ひとりの子どもたちと向かい合っている「愛」が、これらの写真を通して伝わってきます。

118ページには、「話題力」について調べた児童がこのように書いています。
「私はさっそく本を読みあさった。10冊以上の関係する本を読んだ。菊池先生も次から次へと本を持ってきて、「はい。読んでおくこと。がんばって。」と言っては去っていった…。」
このようなことを34人の子どもたち全員にされていたのだろうと思います。
教師と子どもの真剣なぶつかり合いが感じられます。

本の最初、12ページにはこんなことが書いてあります。
「私たちの学級紹介」という項の中で、『一歩前にふみ出す』というタイトルで、子どもの語り部大会という会にある子が参加することになった時のことを書いています。
「平日だけではなく、本番数日前の日曜日には近くの公民館でも練習した。先生の特訓があったのだ。私が語るお話は『とべないホタル』。何度も何度も練習をした。お話をコピーしていた紙がボロボロになった。そして、このお話が大好きになった。」
日曜日に公民館を借りて子どもと向き合っている菊池先生の姿が目に浮かんできます。

「出す声」をまとめた86ページには次のような記述があります。
「『ハキハキと美しい日本語で話しなさい!』『モゴモゴ話さない! 独り言?』『それはただの「出る声」。「出す声」で話すのです! 授業中に菊池先生から厳しい声が飛んできます、何度もやり直しがあります。」
無自覚に出している声ではなく、気持ちを込めて声を出すことを教え、育てようとしている菊池先生の姿が生き生きと伝わってきます。
教師と子どもの磨き合い、ぶつかり合いを通して、一人ひとりの子どもがこの本作りを通して成長していったことが想像できます。

11ページの「はじめに」に該当する部分に、ある児童がこのように書いています。
「この本で、少しでもそんな私たちのがんばり、成長が伝わるととてもうれしいです。」
本作りを通して子どもたちが先生とぶつかり合い、頑張り、成長したことを実感していたからこそ書くことができた言葉ではないかなと思います。
本の後ろの方、119ページにはこんなことが書いてあります。
「ほんのちょっとだけど自分中心から相手中心に成長している。話題力は奥が深い。」
と。
「話題力」をテーマに掲げた子どもが、その学びを通して自分中心から相手中心に成長したと書いているのです。
これこそが、コミュニケーション力が本当に身についたことの証ではないかと思いました。

拾い読みをしてみましたが、この1冊の中には、子どもたちの素直な、そして本当の言葉が書かれています。
私は、2回めの編集というなかなかない経験をさせていただきましたが、「小学生が作ったコミュニケーション大事典」改め「コミュニケーション34の力」をたくさんの人に読んでもらいたいと思いました。
子どもたちの珠玉の言葉が詰まった1冊です。
先生方、保護者の方々、そして児童の皆さん、さらには企業研修などで多くの社会人の方々に手に取っていただきたいと思っています。
今、図書館の方にもお声かけをして、蔵書として置いていただくようにお願いもしています。
全国の学校図書館、そして学級文庫にも置いていただけたらうれしく思います。

「コミュニケーション34の力」をよろしくお願いいたします。